短期前払費用の特例の留意点/等量等質のサービス・重要性の原則など

期末の決算対策として、期末に生命保険料を年払いしたり、家賃を年払いしている会社も多いかと思います。

年払いに関しては単なる課税の繰り延べではありますし、初年度だけの効果でもありますので利益が出続けている企業にとっては、トータルで見ると税金はほぼ変わりません。ただ、年払いについては支払時期を変更するだけですので、想定以上に利益が多く出た事業年度に、実質的なキャッシュアウトがない(いずれ支払うものを先払いしているだけ)節税方法として使われることも多いかと思います。

この年払いについては、法人税法基本通達2-2-14の短期前払費用の特例というものを利用している、ということは知っている方も多いかと思いますが、通達や判例をしっかりと理解した上で利用しているという方は意外と少ないため、今回は改めて短期前払費用の特例について見ていきたいと思います。

法人税法基本通達2-2-14

まずは通達を見てみましょう。

法人税法基本通達2-2-14(短期の前払費用)

前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。

(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。

この要件を簡単まとめると、以下の通りとなります。

  • 一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用であること
  • 支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
  • 継続的に支払った日の属する事業年度の損金としていること
  • 売上原価のように収益と個別的に対応するものではない

通達だけを見ると上記を満たせば適用できそうですが、判例などでは以下の点も要件となっていますので留意が必要です。

  • 役務の提供が等量等質のサービスであること
  • 支出金額がその会社の状況に照らし、重要性に乏しいこと

以下でそれぞれの要件について確認していきたいと思います。

継続的に(等量等質の)役務の提供を受けるために支出した費用であること

  • 一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用であること
  • 役務の提供が等量等質のサービスであること

まず、「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用」ということですので、年払いも契約に基づいて行う必要があります

例えば家賃の年払いを行う際に、契約自体を変更せずに単に支払いだけを変更した場合には契約に基づいて支出してはいないため、否認されるリスクはゼロではありません。

実務上はそこまで確認されたことはありませんが、可能な限り、年払いを行う場合には支払期日の変更を覚書などで締結することをお勧めします。

次に、役務の提供が等量等質のサービスであることについては、参考となる判例があります。

平成19年6月29日 東京地裁(TAINSコード:Z257-10743)

本件通達は、企業としては、前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの)はその支出をする時の費用に計上する経理処理を行っていることが多く、これらについて厳密な期間計算を行って税務上別個の計算を行う実益を捨ててもさして弊害がないと思われることから、企業におけるこれら期間損益の処理を特例的に是認する取扱いであると解されるところ、その役務が等量等質のものではない場合には、時の経過に応じて収益と対応させる必要があることから、本件通達による特例的取扱いは認められないものと解すべきである。

そこで、本件手数料について検討するに、本件手数料は、Nが原告に対し、毎日、特殊景品を納入する業務に係る手数料であり、本件委託契約書では、原告がNに対し、その納入に対する代価を現金で支払うことが約定されているところ、その納入量及び代金額は、日々の業務内容により変動し、原告及びNにおいて、毎日、あるいは一定期間ごとに、納入を必要とする特殊景品の数量についての連絡や、その納入確認及び代金計算等が不可欠なものと推認されるから、本件手数料をもって前記の等量等質の役務の対価であると認めることはできない。

上記はパチンコ業を営む会社が特殊景品の納入業者に支払った手数料について、短期前払費用の特例の可否が争われた事例です。

日々の業務内容により代金やサービス内容が変動する場合には、等量等質ではないと考えられ、本通達の適用を受けることが出来ないこととなります。

具体的には次の様な区分となります。

等量等質 適用なし
地代家賃、リース料、保険料、保守料など 数量に応じて代金が変動するもの、税理士報酬・弁護士報酬などの士業の顧問料、雑誌等の年間購読料など

支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものであること

  • 支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものであること

次に、こちらの要件を見ていきます。

通達上では「支払った日から1年以内」となっていますが、文言通りの意味で取ると、例えば3月決算で3月20日に来期1年分(4月1日~翌3月31日)の家賃の年払いした場合には、翌年3月21日~3月31日分は「支払日」からは1年超になりますので、適用が出来なくなってしまいます。

ということは事業年度の最終日に支払わないと年払いが出来ないのか?と言うと、そう言う訳でもありません。

こちらの国税庁の質疑応答事例では、以下のような事例が示されています。

事例 適用可否
期間40年の土地賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の地代月額1,000,000円を支払う 認めらる
期間20年の土地賃借に係る賃料について、毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払により支払う 認められる
期間2年(延長可能)のオフィスビルフロアの賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の家賃月額611,417円を支払う 認められる
期間4年のシステム装置のリース料について、12ケ月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う 認められる
期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う 認められない

3月下旬に4月~翌年3月の年額を支払う場合には認められる(事例4)とされる一方で、2月に4月~翌年3月の年額を払うことは認められない(事例5)とされています。

実務上ではこの質疑応答事例を参考に、支払月の翌月からの1年分を支払うことは認められますが、支払月の翌々月からの1年分を支払うことは認められない、というような考え方をされていますので、注意が必要です。

継続的に支払った日の属する事業年度の損金としていること

  • 継続的に支払った日の属する事業年度の損金としていること

続いてはこちらの要件です。

利益が一時的に多く出たため、当期は短期前払費用の特例を適用し、翌期には元に戻す、というような方法は認められていません。利益を恣意的に調整することを排除するために、短期前払費用の特例の適用については毎期継続適用するということが求められています。

もし短期前払費用の特例を適用をやめる場合には、例えば年間分を前払いすることが資金繰りが厳しく、取引先と交渉の末、月払いに戻した、というようなやむを得ない合理的な理由が必要になるかと思われます。その場合には契約の支払時期を変える覚書を締結するようにしましょう。

単に利益が出なくなったためにやめるということは認められないため適用には注意が必要です。

支出金額がその会社の状況に照らし、重要性が乏しいこと

  • 支出金額がその会社の状況に照らし、重要性に乏しいこと

この要件が一番判断が難しいところですが、あまり実務上は考慮されていないような気もしますので、注意していただければと思います。

本通達は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準である企業会計原則のうち、重要性の原則によるものです。そのためその支出がその企業にとって重要性が乏しくない場合には否認される可能性があります。短期前払費用の金額の重要性について争われた事例は下記の判例が有名です。

短期前払費用/浚渫業における傭船料

まず、本件通達の後段は、前段で確認された前払費用への費用収益対応の原則の適用の例外をなすものであり、その例外を認める根拠は、税務においても重要性の原則(企業会計原則注解1に規定され、「重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。」とするものである。なお、同原則は、税務処理上「課税上さしたる弊害がないと認められる。」と表現されている。)に基づく会計処理を認めたところにあるものと考えられる。

したがって、同原則から逸脱しない限度でその適用が認められるべきところ、前払費用に係る税務処理が重要性の原則で認められた範囲を逸脱していないかどうかの判断にあたっては、前払費用の金額だけでなく、当該法人の財務内容に占める割合影響等も含めて総合的に考慮する必要がある。このような重要性の原則は企業会計上明らかなことであって、本件通達中にその判断基準が明示されていないからといって、課税要件明確主義に反するとはいえない。

本件において、本件傭船料中の前払費用相当分は4,583万3,333円(5,000万円から損金算入分を控除した残額)と多額である上、以下のような事情も認められ、原告の財務内容に占める割合や影響も大であって、前払いした5,000万円全額を平成7事業年度の費用として計上し、同年度の損金の額に算入することは、重要性の原則で認められる範囲から逸脱するものであり、許されない。

① 平成7事業年度の傭船料勘定の額は前事業年度に比し246.21%増加し、平成7事業年度の工事原価勘定の総額は前事業年度に比し43.86%増加している。

② 平成7事業年度、前事業年度の各売上高に対する傭船料勘定の各割合は、それぞれ19.78%及び8.61%である。

③ 平成7事業年度の工事原価勘定の総額及び傭船料勘定の額に対する本件傭船料の金額の各割合は、それぞれ16.02%及び60.69%である。

④ 平成7事業年度の売上高勘定及び税引前当期利益勘定に対する本件船舶の傭船料の金額の割合は、それぞれ12.00%及び284.99%である。

⑤ 平成7事業年度の支払手形勘定残高にしめる本件傭船料に係る手形の金額の割合は、78.82%であり、同勘定残高を前事業年度と比較すると、203.72%の増加である。

長崎地裁 平成12年1月25日 Z246-8566
福岡高裁 平成12年12月15日 Z249-8801
最高裁 平成13年6月8日 Z250-8918

つまり重要性については、金額(数万円か、数千万円か)だけではなく、割合(売上・経費・利益に対する割合)影響(営む事業にとって重要度の高い支出か)などを総合勘案して判断することとなりますので、決められた明確な基準がある訳ではありません。

上記の判例は、短期前払費用の金額は4,583万円、売上高に対する割合は19.78%、税引前利益に対する割合が284.99%というもので、さらには売上に紐づく原価ということもあり否認されています。

短期前払費用については等量等質のサービスであればどのような支出でも認められる、と言う訳ではありません。

短期前払費用がその企業にとって重要性に乏しいかどうかについては、上記を参考に総合的に判断をする必要があるため、詳しくは顧問税理士と相談して判断していただければと思います。

売上原価のように収益と個別的に対応するものではない

  • 売上原価のように収益と個別的に対応するものではない

通達の注書きにあるように、収益と直接対応させる必要がある費用については、本特例の適用を受けることが出来ません。

上記の浚渫業における傭船料の判例においても、下記の通り判示されています。

短期前払費用/浚渫業における傭船料

  • 長崎地裁

企業会計上、右の売上原価等については、収益と個別的に対応させる、いわゆる費用収益対応の原則がとられ、右原則によって帰属事業年度が決定されている。右のような会計処理は、公正処理基準にあたるものと解され、これを参酌すると、法人税法22条3項1号は、売上原価等については、当該事業年度の収益と個別に対応するものだけを当該事業年度の損金の額に算入することとしているものと解される。

  • 福岡高裁

企業会計原則によれば、売上原価等は収益と個別に対応するものとされており、本件傭船料が売上原価等を構成する以上、費用と収益を個別に対応させるべきである。そして、本件傭船料については、一定期間の収益に対応する原価としてその額を明確に算出できるものであるところ、控訴人は収益を平成8年6月1日から同月30日までの1か月分しか計上していないのであるから、傭船料についてもそれに対応する1か月分を損金の額に算入するのは当然というべきである。

  • 法人税法22条3項1号

内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

つまり、売上に対応する費用(売上原価)については、収益費用対応の原則により、売上と対応して損金の額に算入されるため、短期前払費用の特例の適用は認められないということになります。


以上、短期前払費用についてまとめてみました。

普段何となく使っている短期前払費用の特例も、意外と論点となる点がありますので、よく検討したうえで適用するようにしていただければと思います。

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