法人で購入した車両を私的利用している場合の給与課税の取扱い
法人で車両を購入することはよくあると思いますが、中には実際はほとんどが経営者のプライベート用として使っているという方もいらっしゃることもあるかと思います。
今回は法人で購入した車両をプライベートとして使っている場合の税務上の取扱いを、こちらの裁決事例(平成24年11月1日裁決)を参考に検討していきたいと思います。
前提事実
今回見ていく裁決事例の前提条件は以下の通りです。
- 対象:A社、代表取締役:G氏、妻N
- A社は購入した車両(5,598,240円)とリサイクル預託金を貸借対照表に資産計上していた
- 車両に係る租税公課、保険料、支払利息等の車両関連費用および車両の減価償却費を損金計上していた
- 妻Nはディーラーとの間で新車注文書を取り交わし、注文者の欄にはA社の名称・住所・電話番号等が記載され、代表印の押印があった
- 車検証の「使用者の氏名又は名称」にはA社の名称が、「使用者の住所」にはA社の所在地が記載されていた
- 納車先はG氏・妻N夫妻の自宅であり、車両の保管場所も自宅であった
- ディーラーに登録されていた電話番号は、妻N氏の携帯の電話番号だった
以上より、普段から購入した車両を妻Nが個人利用していたという点については争いがない状況でした。
その中で、購入した車両の取得価額や、車両関係費用についてどのような取り扱いとなるのか、という点が焦点となっています。
税務署側の主張
税務署側は「車両は、購入当初からG代表の妻Nが使用しており、車両の取得費及び車両関連費用に相当する金額はいずれもG代表に支払った役員給与に当たる」とし、さらにその金額を「事実を隠ぺい又は仮装して支払った役員給与の額」と主張しました。
つまり、車両の取得費5,598,240円と租税公課などの車両関係費用はすべて役員給与に該当し、法人税法第34条第3項(仮装隠蔽による役員給与の支給)の規定により、それらの全額が損金の額に算入されない、としたのです。
納税者側の主張
一方、納税者側は「妻Nが車両を個人的に使用しており、その間の事業年度における使用、保管、減価償却費及びA社が負担した費用に関し、その部分の利益は当然受けていることから個人の使用料相当額として損金性を否認されることはやむを得ないものの、本件車両はA社名義であるので、A社が取得したというべきであり、車両については役員給与ではなく、A社の資産として処理されるべきである」と主張しました。
つまり、妻N氏が個人利用した分にかかる使用料相当額については否認されることは仕方がないが、一方で、車両はA社名義でありA社が取得したものであるから、車両の取得費までを役員給与として認めるわけにはいかない、という主張です。
いずれの主張も言いたいことは分かりますが、実際はどのように裁決されたのでしょうか。今回の争点をまとめると以下の通りです。
車両の取得費が給与課税されるか?
まず車両の取得費について、プライベート利用のために購入したからといって給与として課税されてしまうのでしょうか。
これについて、国税不服審判所の判断は以下のとおりでした。
A社が、①本件車両の購入に関する注文の当事者であり、②信販会社を通じて本件車両の売買代金を支払い、③自動車検査証に使用者として記載されているところ、これらの各事実からすると、車両の取得者は、A社であると認められる。
この点に関し、原処分庁は、車両はG代表の妻Nの個人使用の目的で購入したものであるから、車両取得費がG代表に対する給与であると主張しているところ、確かに、車両の納車場所や保管場所がG代表の妻の居宅であったことや、ディーラーからの連絡先がG代表の妻であったことなどからすると、本件車両をG代表の妻が個人的に利用していることが認められる。
しかしながら、上記各事実からは、G代表の妻が車両を個人的に利用しているといえるに留まるのであって、A社からG代表に対して車両の贈与があった等、A社が一定の行為をしたことにより実質的にG代表に対して給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらしたとまでは認めることができない。
したがって、車両取得費が役員給与に当たるとはいえないから、原処分庁の主張には理由がない。
上記のとおり、審判所は妻Nが個人的に車両を利用しているとは認定しました。しかし、車両自体はA社が取得したものであり、それをG代表や妻Nに贈与した等の事実はないことから、車両の取得費自体は役員給与に該当しないという判断を下しています。
車両関連費用や個人使用料相当額などの取扱い
次に、自動車税や自賠責保険料等の車両に係る費用や、車両をプライベート利用していた部分の取扱いについては、以下のような判断がされています。
車両関連費等の取扱い
上記のとおり、車両はG代表の妻Nが専属的に利用していたと認められるところ、それは、G代表が実質的経営者としての権限を利用してA社が所有する車両をG代表の妻Nに使用させていたと認めるのが相当である。
そして、G代表は、A社に対し、車両関連費用に相当する金員の支払をしていないのであるから、車両は、A社からG代表に対して無償で貸与されていたと認められる。
したがって、G代表はこれにより通常支払うべき対価の額相当の利益、すなわち車両について経済的利益等を享受しているということができる。また、G代表は役員に該当するところ、法人税法第34条第4項1は、役員給与には経済的な利益を含む旨規定しているから、車両の利用により享受する経済的利益等も役員給与に当たる。
上記のとおり、今回のケースでは妻Nの私的利用が認められており、車両をA社がG代表に対して無償で貸与されていたと認定されました。この無償で貸与するという経済的な利益を享受していたことから、役員給与にあたるとされています。
経済的利益の額の算定方法
それでは次に、この経済的な利益の額(=役員給与の額)はどのように算定されたのかを見ていきたいと思います。
所得税法施行令第84条の2《法人等の資産の専属的利用による経済的利益の額》は、法人又は個人の事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益等の額は、その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額(以下「資産利用対価額」という。)である旨規定している
これを本件についてみると、車両を専属的に利用する場合の資産利用対価額を客観的に算定することは困難であるから、当該資産の取得時の価値を基礎に算出するのが合理的であり、車両の取得価額を基礎として、その使用可能期間に占める貸与期間に相当する額を算出した上、それを当該貸与期間の月数で均等にあん分して算出される金額(以下「あん分取得価額」という。)及び1か月当たりの本件車両関連費用の合計額を1か月当たりの資産利用対価額とするのが相当である。
その場合、本件車両の使用可能期間については、資産の使用又は時の経過による当該資産の価値の減少分を算定する減価償却費の計算における法定耐用年数を採用するのが相当である。また、貸与期間については、その定めがないことから、法定耐用年数と同一とするのが合理的である。
そうすると、あん分取得価額は、本件車両の取得価額を基礎として、耐用年数表に定められている年数(「車両及び運搬具」の「自動車」欄の「その他のもの」)である6年の期間により、均等にあん分計算するのが相当である。
ここでは役員給与の額の計算方法について判断が示されています。
使用料相当額を客観的に算定することは困難であることから、以下の合計額を1ヵ月あたりの資産利用対価額(=給与課税される金額)とするとされました。(すべての期間を個人利用している場合)
- 使用料相当額 : 取得価額 ÷ ( 法定耐用年数 × 12ヵ月 )
- 車両関連費用 : 自動車税・自賠責保険料等の1ヵ月あたりの金額
※使用料相当額は、定率法での計算を行う訳ではなく、あくまで使用可能期間で均等に按分することが相当であると考えられています。
役員給与の損金不算入となるか
給与課税される金額は分かりましたが、給与課税された金額は損金不算入となるのでしょうか。
まず、使用料相当額については、貸与期間中に継続的に供与を受ける利益であり、その利益の額がおおむね一定であることから、定期同額給与に該当します。
【参考】
定期同額給与(継続的に供与される経済的利益)については、こちらの記事も参考にしてください!
また、車両関連費については、以下のように判断されています。
車両関連費用のうち、自動車保険料の額及びローン契約に基づく支払利息の額は、いずれも一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出されるものであり、A社がこれらの費用を負担したことによりG代表が受ける経済的利益等も継続的に供与を受ける利益であるといえる。
他方、本件車両関連費用のうち、自動車税、自動車取得税、自動車重量税及び本件ディーラーに対する手数料等の額は、継続的に役務の提供を受けるための支出金ではないから、G代表は、A社がその支払をしたときに経済的利益等を享受したといえる。
車両関連費用は、上記のとおりその内容によって変わります。簡単にまとめると以下のとおりとなります。
支払内容 | 取扱い |
自動車保険料、ローンの支払利息 | 定期同額給与に該当し、損金算入 |
自動車税、自動車取得税、自動車重量税、ディーラーへの手数料等 | 定期同額給与に該当しないため、損金不算入 |
期首から3ヵ月経過後に契約した場合は、3月経過後に役員報酬が増額することになるが、定期同額給与に該当するの?
これは気になるところだと思います。こちらについては、結論としては定期同額給与に該当するものと考えられます。
詳しくは、こちらの記事をぜひご覧ください!
仮想隠蔽をして支給したものとして損金不算入となるのか?
法人税法第34条第3項は、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることにより役員に支給する給与の額は、損金の額に算入しないと規定しています。
上記で、給与課税された金額は一部定期同額給与に該当すると記載しましたが、国税側は、この給与課税された金額は法人税法第34条第3項に該当するものとして、損金の額に算入されないと主張しました。
これについて、審判所は以下の判断を示しています。
法人税法第34条第3項は、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることにより役員に支給する給与の額は、損金の額に算入しない旨規定しているところ、ここにいう「事実を隠ぺいし」とは、特定の事実を隠匿しあるいは脱漏することをいい、「仮装して」とは、特定の所得、財産あるいは取引上の名義を装う等事実をわい曲することをいうものと解される。
ところで、原処分庁は、車両関連費用について、事実を隠ぺい又は仮装してG代表に支払った役員給与に当たる旨主張するが、車両関連費用については、それぞれ租税公課、保険料又は支払利息等の勘定科目をもってその帳簿に記載されており、事実を隠ぺい又は仮装していたと認めるに足る証拠はないから、原処分庁の主張には理由がない。
租税公課等の科目で、帳簿に記載している訳ですので、認識の違いはあれど事実を隠蔽したり仮装したという証拠はないということで、国税側の主張は認められませんでした。
まとめ
以上、車両を私的利用している場合の取扱いについてまとめました。
概要をまとめると以下のとおりです。
項目 | 取扱い |
車両の取得費 | 契約者等から法人が取得者と認められれば、贈与等の事実がない限り給与課税されない。 |
使用料相当額 | 1月あたり、取得価額 ÷ ( 法定耐用年数 × 12ヵ月 ) が給与課税される。定期同額給与に該当するため、源泉徴収もれが問題となる。 |
自動車保険料、ローンの支払利息 | 1月あたりの金額が給与課税される。定期同額給与に該当するため、源泉徴収もれが問題となる。 |
自動車税、自動車重量税、ディーラー手数料等 | 支出した際に給与課税される。定期同額給与に該当しないため、損金の額に算入されない。源泉徴収もれも問題となる。 |
税務署側が、車両をプライベート利用しているのであれば、車両の購入費を給与課税すべきでは?という主張をしてこないとも限りませんので、この裁決事例は把握しておきたいところですね。