人員が常駐しない無人店舗の事業所該当性

コロナ禍で非接触型の店舗が増えてきました。自動精算機や料金箱を設置して人員を配置しない無人販売所や、オンラインで予約、決済など行うことで利用できる無人型施設なども増えてきています。

このように人員が常駐しない店舗について、地方税の申告対象となる「事業所」となるか迷うことがあると思います。事業所となれば、均等割りを払う必要がありますし、

そこで今回は、人員を配置しない無人店舗について、地方税の事業所にあたるのかどうかを見ていきたいと思います。

地方税法上の定義

地方税法上、「事業所」はどのように定義されているのでしょうか?

実は、条文上では明確に「事業所」の定義は規定されておらず、以下の地方税法の施行に関する取扱いについてという取扱通達において触れられています。

地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)

6 事務所又は事業所

(1) 事務所又は事業所(以下「事務所等」という)とは、それが自己の所有に属する ものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで 継続して事業が行われる場所をいうものであること。この場合において事務所等において行われ る事業は、当該個人又は法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、本来の 事業に直接、間接に関連して行われる附随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われてい ると考えられるものについては、事務所等として取り扱って差し支えないものであるが、宿泊所、 従業員詰所、番小屋、監視所等で番人、小使等のほかに別に事務員を配置せず、専ら従業員の宿泊、監視等の内部的、便宜的目的のみに供されるものは、事務所等の範囲に含まれないものであ ること。

(2) 事務所等と認められるためには、その場所において行われる事業がある程度の継続性をもった ものであることを要するから、たまたま2、3か月程度一時的な事業の用に供する目的で設け られる現場事務所、仮小屋等は事務所等の範囲に入らないものであること。

つまり、簡単に要件をまとめると以下の3点になります。

  • 人的設備があること
  • 物的設備があること
  • 継続性があること

人的設備とは

人的設備とは事業活動に従事する自然人をいいます。

具体的には、正規従業員だけでなく、法人の役員、清算法人における清算人、アルバイト、パートタイマーなども含みます。また、人材派遣会社から派遣された者も、派遣先企業の指揮および監督に服する場合は人的設備となりえます。

物的設備とは

物的設備とは、事業に必要な土地、建物、機械設備など、事業を行うのに必要な設備を設けているものをいいます。

継続性があること

事業の継続性には、事業年度の全期間にわたり連続して行われる場合のほか、定期的又は不定期的に、相当日数継続して行われる場合を含みます。

一時的(3か月程度、建設工事の現場事務所の場合は6か月程度)に設置された現場事務所・仮小屋等は、継続性がないため事務所等には該当しません。

また、そこで事業が行われた結果、収益ないし所得が発生することは必ずしも必要としません。

これらの3要件については、個別事情に照らして総合的に判断する必要があります。

今回のケースである人員が常駐しない無人店舗について、この3要件を満たしているかどうかを考えていきますと、設備があるのであれば物的設備を満たしますし、一時的な店舗でない限りは継続性も満たすことになります。

一方で、店舗が無人で人員が常駐しないということは、人的設備を満たさないということになるのでしょうか?そうなると、人員が常駐しない無人店舗は事業所等に該当せず、均等割りの納税も必要ないということになります。

こちらについてもう少し検討するために、次に判例を確認していきたいと思います。

事業所等に関する判例

条文や取扱通達のみではなかなか判断が難しいため、事業所等に関する判例を2つ確認していきます。

事業内容 事業所等への該当性
レンタル収納スペースの貸付 事業所等に該当する
運送業者の倉庫 事業所等に該当する

上記はいずれも事業所に該当するという判断となりました。判決の概要は以下のとおりです。

レンタル収納スペースの貸付

事業内容等

オフィスビル等の所有者から空室となっている居室を賃借し、その内部に仕切り、扉等の加工造作を施し、ロッカー様の細分化された多数の収納空間(レンタル収納スペース)を設けた上、個別の収納空間を顧客に貸し付けて、顧客から対価を得る事業。

レンタル収納スペースのある建物に管理人を置いておらず、詰所等の事業主専用のスペースも設置していないが、警備会社に委託して、入口ドアにセキュリティーシステムを設けており、また、業者に委託して、1か月に3回程度の割合で、定期的にレンタル収納スペースのある建物の同スペースを除く共用部分を巡回、清掃している。

裁判所の判断

「事業所等」とは、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいい、上記の人的設備とは、当該事業に対し役務を提供し事業活動に従事する自然人をいうと解するのが相当である。

本件事業に供する居室に常駐の管理人は置かないものの、警備会社に委託して、複数の顧客の居室への入退室の管理を行ない、顧客以外の者が居室に侵入することを排除しており、また、業者に委託して、1か月に3回程度の割合で、担当者が定期的に居室を巡回、清掃しているところ、これらの管理行為は、レンタル収納スペース全体の物品保管機能を高めることを目的として、居室において、顧客に対して人的な役務の提供を行っているものということができる。

そうすると、当該居室は、単なる物的設備ではなく、本件事業に対し役務を提供し事業活動に従事する人的設備をも備えているということができる。

上記等より、本件事業を行うためにレンタル収納スペースが設けられている居室は、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所であるということができるから、「事業所等」に該当すると解される。

東京地方裁判所平成23年(行ウ)第770号事業所税更正処分取消等請求事件
平成25年6月28日判決

運送業者の倉庫(裁判所の判断)

事業内容等

運送事業を営む会社において、配送センターにおいて業務を行う妨げとならないように、発送残となった販促物等の物品は、本件各倉庫に適宜振り分けて移送され、γ倉庫は出庫の可能性が高く保管期間が長期に及ばないと見込まれる物品の保管に用いられ、β倉庫及びδ倉庫は、出庫の可能性が低く保管期間が長期にわたると思われる物品の保管に用いられていた。

裁判所の判断

ある家屋の全部又は一部が事業所等の用に供される事業所用家屋に当たるといえるか否かを判断する際には、そこに人が常駐するか否かといった形式的な基準によるのではなく、その構造及び物的設備の内容等、そこで行われている業務の内容及び性質、当該法人又は個人の行う事業における当該業務の位置付けないし役割、その他その管理状況やそこへの人の出入りの状況等の事情に照らして総合的に判断すべきものであり、たとえそこに人が常駐していなかったとしても、当該法人又は個人において事業を行う必要から設けられ、他の事業所等の人的設備をもってそこで継続してその事業に係る業務の一部が行われていると認められる場合には、当該家屋の全部又は一部は、事業所用家屋に当たると解するのが相当である。

本件各倉庫については、たとえ人が常駐しない施設であったことを考慮しても、人的設備を備えたα配送センターを中心として行われている原告の事業の枠組みにおいて、α配送センターといわば有機的に一体を成すものとして位置付けられて当該事業のために直接に利用されていたものであり、原告において事業を行う必要から設けられ、α配送センターの人的設備をもってそこで継続して原告の事業に係る業務の一部が行われていると認めるに足りる事情があったといえるから、事業所等の用に供されている事業所用家屋に当たると認められるというべきである。

東京地方裁判所平成21年(行ウ)第104号事業所税更正処分取消等請求事件
平成23年2月8日判決

判例のまとめ

上記の判例から、判断の基準となったポイントは、主に以下のような点になるかと思います。

  • 人が常駐するか否かといった形式的な基準によるのではなく、構造及び物的設備の内容等、そこで行われている業務の内容及び性質、法人の行う事業における当該業務の位置付けないし役割、その他その管理状況やそこへの人の出入りの状況等の事情に照らして総合的に判断すべきである。
  • 人が常駐していなかったとしても、事業を行う必要から設けられ、他の事業所等の人的設備をもってそこで継続してその事業に係る業務が行われていると認められる場合には人的設備があると考えられる。

そのため、たとえ人が常駐しない無人店舗であったとしても、上記のような状況であれば、事業所等として判断される可能性があるということになります。

人員が常駐しない無人店舗は?

上記で事業所等の定義について確認してきました。ただ、明確な基準がある訳ではなく、総合的な判断が求められますので、簡単に判断するということはできません。

判例などを参考に、以下の3つのケースの無人店舗の事業所等に該当するかどうかについて検討したいと思います。

(1)無人決済店舗システムを導入した店舗の場合

  • 内装設備や什器備品、決済端末などの設備投資が行われている
  • 商品を発注したり、商品の補充などが店舗において行われている
  • 相当数の一般顧客の出入りが見込まれる
  • 本店等の人員により管理されている

このような状況であれば、「事業所等」に該当する可能性が高いと思われます。

一般的にはこのような無人決済システムを導入している店舗は、設備投資もしっかりとしており、管理体制も構築されています。また、品出しなどの業務はどうしても発生してしまいますので、仮に営業中に人員が常駐しなかったとしても、他の本店・事務所の人員において管理されていると考えられますので、人的及び物的設備を備えていると認定される可能性が高いと考えられます。

(2)野菜の無人販売所

一般的には内装や什器備品などのしっかりとした設備投資はないことが多く、管理状況も整っているとは言えないことが多いかと思いますので、事業所等には該当しない可能性が高いと思われます。

(注)上記は筆者の一般的な意見であり、実際の取扱いについては個別の事情を勘案したうえで検討してください。

まとめ

今回は人員が常駐しない無人店舗が事業所等に該当するかどうかについてまとめました。明確な基準がなく、判断に迷うところですね。。

ただ、地方税ということもあり、都道府県によって回答が変わるということもあり得ます。また、実際ここまで把握している都道府県の職員の方も少ないかと思いますので、仮に問い合わせしたとしても、単純に常駐する人員がいない=人的設備がない、ということで事業所に該当しない、という回答がされる可能性もあります。(実際ありました)

そのため、上記の考え方はしっておきつつ、地方税の分割基準や均等割りに影響しますので、各個別事情を勘案の上、事業所等に該当するかどうか判断をして頂ければと思います。

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