永年勤続表彰で旅行券を支給した場合(福利厚生費か給与か)

永年勤続表彰は、長期にわたって企業に勤めた従業員に対して贈られる表彰で、モチベーションや貢献意識の向上を期待して導入される制度です。今回は永年勤続表彰を行ったときの給与課税の取扱いについてまとめていきたいと思います。

所得税法基本通達36-21

まず、永年勤続者への表彰等については、所得税法基本通達36-21において以下のように言及されています。

所得税法基本通達36-21(課税しない経済的利益...永年勤続者の記念品等

使用者が永年勤続した役員又は使用人の表彰に当たり、その記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)を支給することにより当該役員又は使用人が受ける利益で、次に掲げる要件のいずれにも該当するものについては、課税しなくて差し支えない。

(1) 当該利益の額が、当該役員又は使用人の勤続期間等に照らし、社会通念上相当と認められること。

(2) 当該表彰が、おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける者については、おおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであること。

基本的な考え方としては、従業員に対して旅行などへの招待をした場合には、会社から従業員に対して経済的利益を供与したものとして給与課税されることとなります。

ただし、今回の永年勤続者への表彰については一般的に行われている行事であり、その表彰で旅行への招待や記念品等を支給することも一般的です。

これらは一般的に行われてきた慣習による給付であり、このようなものにまで課税することは社会通念上妥当ではないという配慮から、この通達では課税上弊害がない範囲内で課税しないとされています。

ここでのポイントは以下の点です。

  • 現金の支給ではないこと
  • 勤続期間等に照らし、社会通念上相当であること
  • おおむね10年以上の勤続年数の者を対象としていること
  • 2回以上表彰を受ける場合、おおむね5年以上の間隔で行われていること

これらの要件を満たすようであれば、旅行等への招待等については給与課税されず、福利厚生費として計上することが可能です。

旅行券を給付した場合

永年勤続表彰において、旅行への招待や記念品の贈呈に変えて、旅行券を給付した場合にはどうなるのでしょうか。

旅行券については換金性が高いものとなりますので、従業員へ渡した場合には現金を渡したことと同義となり、原則的には給与課税が行われます。ただし、一定の要件を満たした場合には、旅行券を渡したのにかかわらず給与課税を回避して福利厚生費として計上することが可能です。

この永年勤続表彰における旅行券の給付ついては、昭和60年に日本放送協会が国税庁へ照会した事例直法6-4 昭和60年2月21日)が有名です。

この照会では、以下のような状況であれば給付した旅行券については課税しなくても差し支えないという回答となっています。

  • 旅行は旅行券の支給後1年以内に実施する
  • 旅行は旅行券の額からみて相当なもの(旅行券の額以上の旅行)
  • 旅行を実施した場合には、所定の報告書に必要事項(旅行実施者の所属・氏名・旅行日・旅行先・旅行会社への支払額等)を記載し、旅行先を確認できる資料を添付して提出する
  • 1年以内に旅行券の一部又は全部を使用しなかった場合には、旅行券を返還する

実務上はこの照会事例を参考にして、給与課税を回避するようにしています。ポイントとしては次の点になるかと思います。

  • 旅行券の支給後1年以内に利用すること
  • 旅行券を全額旅行のために使用する
  • 旅行後は旅行日・支払額等を記載した報告書を提出する
  • 領収書を提出する

報告書についてはプライベートなことを記載することになりますので今の時代とは合致していないかもしれません。。。

条文で給与課税されない要件が決められているというわけではありませんので、上記を必ずすべて行わなければダメということはありません。ただし、その場合には給与課税されるリスクもありますので個別に取扱いを検討していただく必要があります。

ただし、本来の趣旨(旅行券を支給することによる旅行への招待)を考えると、少なくとも1年以内の使用と、その旅行券を全額旅行のために使用したということは少なくとも証明できるようにしておく必要があるかと思われます。

旅行券を全額旅行のために使用したという証明は、例えば、旅行会社の領収書には支払手段(旅行券〇円、クレジットカード〇円など)が記載されますので、それをエビデンスとして提出するなどが考えられるかと思います。

ちなみに筆者の事務所では、照会事例とまったく同様の運用(報告書も含めて)として、給与課税されないように対応しています。

新型コロナウイルス感染症の影響により1年以内に使用できなかった場合

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、表彰が遅れた、又は1年以内に旅行へ使用することが出来なかった場合については、期限を延長して最終的に使用されて報告書の提出があれば課税しなくとも差し支えない、というある程度柔軟な対応が示されています。詳しくはこちらをご参照ください。

旅行券はいくらまで支給できるか

上記で旅行券の支給で給与課税されない方法を紹介しました。ただし、上記をクリアすればいくらでも旅行券を支給できるかというと、そういう訳ではありません。あくまで、社会通念上相当であると認められる金額の範囲内である必要があります。

これに関しては、はっきりと決まった金額がある訳ではありませんので、いくつかの側面から検討してみたいと思います。

勤続年数に対する永年勤続表彰の金額

勤続年数 国税庁への照会事例
(※1)
調査事例
(※2)
実際の複数社の事例
10年 3.6万円 10万円
20年 7.5万円
25年 10万円 7.1万円
30年 13.2万円
35年 20万円 8.4万円

※1 上記の照会事例での金額(直法6-4 昭和60年2月21日)
※2 産労総合研究所による調査「永年勤続表彰制度に関する調査」2006年11月

上記より、照会事例の金額(25年勤続で10万円)や、少し古いですが調査事例(10年勤続で3.6万円)であれば問題ない金額です。

一方で、最近は以前のような終身雇用ではなく、転職も頻繁に行われるような時代です。そのため、永年勤続表彰により社員に長く勤めてもらうための動機付けも狙っていくために、表彰の際に給付する金額が増えてきている印象です。(あくまで筆者の印象ですが)

実際に、勤続10年の表彰で10万円の旅行券を支給している企業が複数ありました。また、税理士事務所たる筆者の事務所も、勤続10年で10万円の旅行券を支給することとなっています。

そのため、勤続10年で10万円という金額は、現在の状況を踏まえると社会通念上相当である金額の範囲内ではないかと考えられます。

※ただし、あくまで実例があるというだけで認められている金額という訳ではありませんので、実際は顧問税理士と相談したうえで決めるようにしてください。

まとめ

以上、永年勤続表彰における給与課税の取扱いについてまとめました。

従業員には長く働いてもらえればもらえるほど生産性が上がっていきます。退職が頻繁に行われるようであれば、社員のモチベーションも下がってきますし、新たに人材を採用・教育するためのコストもかかります。

そのため、永年勤続表彰については、上記を踏まえて給与課税されないようにしつつ、従業員のモチベーションを上げれるような制度設計として頂ければと思います。

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