決算賞与を未払計上するための3つの要件と4つの注意点
期末に計上する決算賞与について、一定の要件を満たした場合には決算時に未払計上することが可能です。
ただし、利益調整を防止する観点から未払計上するためには厳格に要件を満たすことが求められています。今回は賞与を期末に未払計上する際の要件や注意点についてまとめていきたいと思います。
未払賞与の損金算入のための要件
まずは使用人賞与の損金算入時期に関する条文を確認していきます。こちらは法人税法施行令第72条の3において規定されています。
法人税法施行令第72条の3(使用人賞与の損金算入時期)
内国法人がその使用人に対して賞与(給与1のうち臨時的なもの2をいう。以下この条において同じ。)を支給する場合3には、これらの賞与の額について、次の各号に掲げる賞与の区分に応じ当該各号に定める事業年度において支給されたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。
一 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額の通知がされているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理をしているものに限る。)
当該支給予定日又は当該通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度
二 次に掲げる要件の全てを満たす賞与
使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
ロ イの通知をした金額を当該通知をした全ての使用人に対し当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から一月以内に支払つていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
三 前二号に掲げる賞与以外の賞与
当該賞与が支払われた日の属する事業年度
この1号か2号に該当しない場合には、賞与の損金算入時期は3号の賞与支給日となります。そのため、決算時に未払計上するためには1号か2号の要件を満たす必要があります。
それでは具体的に1号と2号の要件について確認していきたいと思います。
1号(支給予定日が到来している給与)
まず第1号の要件です。
こちらは労働協約(労働組合と使用者が協議し合意したもの)又は就業規則により定められた支給予定日が到来している場合には、期末までに支給額の通知をして損金経理をすることにより未払賞与を損金の額に算入することができます。
労働協約や就業規則で賞与の支給予定日を定めている必要がありますが、決算賞与については通常、就業規則等で定めていることは少ないかと思います。この場合には就業規則等で定めているものではないため、この要件を満たさないことになります。
【例】就業規則で賞与を6月と12月に支給すると定めている場合の3月決算法人の決算賞与
3月の決算賞与は就業規則において定めれれた6月と12月以外の賞与であるため、1号の要件を満たさない。
多くの中小企業では就業規則で賞与の定めがなかったり、そもそも就業規則の存在自体があやふやな会社もありますので、まずは就業規則でどのように定められているかを確認してください。
2号(各人ごとに通知している場合等)
続いて第2号の要件です。
こちらは以下の3つの要件をすべて満たすことで、支給額の通知日の属する事業年度において損金算入することが可能です。
- イ 支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
- ロ 通知をした金額を通知をした全ての使用人に対し、通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から一月以内に支払つていること。
- ハ 支給額につき、通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
就業規則等に定めがない決算賞与の場合には、この要件を満たす必要があります。
1号の支給額の通知と損金経理に加えて、翌期首から1ヵ月以内で支給するという要件が加わっています。
この要件を検討する上で注意したい点を以下にまとめます。
注意点① 支給日に在籍する者のみに支給すると定めている場合
就業規則において、下記のように定めている会社があります。
賞与は、支給日当日に会社に在籍している者について支払うこととする。
この場合には、下記の通達のとおり「支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること」には該当しないため、要件を満たさないことになりますので注意が必要です。
そのため、2号の要件を満たすことで未払計上しようとするときは、その賞与が就業規則でどのように規定されているかは必ず確認するようにしてください。
就業規則で上記のように規定されている場合に、どうしても決算賞与を未払計上したいときは、就業規則自体の変更を検討する必要があります。
法人税法基本通達9-2-43(支給額の通知)
法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、令第72条の3第2号イの支給額の通知には該当しないことに留意する。
注意点② 正社員とアルバイトを区分して賞与を支給する場合
パートタイマー等の賞与については、正社員の賞与の支給基準と異なり、支給しない又は寸志程度の支給としている会社も少なくありません。このように、パートタイマー等と正社員の賞与の支給について区分している場合には、以下の法人税法基本通達9-2-44のとおり、支給額の通知は、その正社員・パートタイマー等の区分ごとに行うことが可能です。
法人税法基本通達9-2-44(同時期に支給を受ける全ての使用人)
法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除く。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに、令第72条の3第2号イの支給額の通知を行ったかどうかを判定することができるものとする。
具体例でみると、正社員については支給額を通知し、パートタイマーについては支給額の通知をしなかったとします。賞与の支給基準等についてはそれぞれ別々に区分されています。
この場合の「同時期に支給を受けるすべての使用人」への通知は、その区分ごと(正社員・パートタイマー等の別)に全員に通知しているかで判定を行いますので、このケースでは正社員の全員に支給額の通知をしていれば、正社員分については通知の要件を満たすことになります。
そのため、正社員分については上記要件を満たして決算賞与を未払計上し、パートタイマー等の賞与については翌期の支給時に支給額を伝えて翌期の損金とする、ということも可能です。
注意点③ 通知額と異なる額を支給した場合
期末に通知をした金額と異なる金額を支給した場合には、ロの「イの通知をした金額を・・・一月以内に支払つていること」の要件を満たさないことになりますので、未払計上した賞与の全額について損金の額に算入することはできません。
この点、通知額と実際の支給額との差額が否認されるという訳ではなく、支給額の全額が損金不算入となりますので注意が必要です。
また、「通知をした全ての使用人に対し・・・一月以内に支払つていること」という要件となっていますので、仮に1人でも支給が遅れ一月以降に支払ってしまった場合にも、この要件を満たさないこととなります。
この場合も同様に、支給が遅れた1名分だけではなく、全員分が否認されることとなります。
注意点④ 支給額の通知の方法
1号と2号のいずれも、支給額の通知日が重要となってきます。
そのため、使用人に対して賞与の支給額をいつ通知したかという点については、後日税務調査等があった際に証明できるようにしておくことが必要です。
支給額の給与明細を作り使用人より確認印と確認日を記入してもらったり、メールやコミュニケーションツールなどで送信日が分かるような形で全員に通知したり、オンラインの給与明細などで支給額を通知したりと、「いつ」通知したかを、客観的に後日確認できる方法で行うことをお勧めします。
なお、税務調査の際に税務職員が従業員にヒアリングをしていつ通知があったのかを確認したり、通知書のファイルの作成日(又は更新日)からいつその通知書が作成されたのかを推認される、ということもあります。
通知の要件を満たしているように装うために通知書を後付けで作成していた場合、後日税務調査が入った際にそれが発覚すると、仮想隠蔽行為を行ったものとして重加算税が課税されるという可能性もあります。そのため、必ず期末までに通知を行うことと、通知を行った日を証明できるようにしておくようにしてください。
まとめ
今回は賞与の損金算入時期についてまとめました。
特に決算賞与を支給する場合には、上記の要件を事前に把握をしておいて、準備をしっかりとしておく必要があります。
また、支給額を決算前に検討するためにも、決算予測をしっかりと行うことも重要になってきます。